華やかなグラフィックが躍るゲーム開発の裏側には、表からは見えない地道な事務作業が膨大に存在します。なかでも、数千から数万におよぶアセット(画像や素材)を正しく処理するための「ネーミング(リネーム)作業」は、多くのデザイナーの時間を奪う積年の課題でした。
株式会社KMSでは、このルーチンワークを「コードが書けないデザイナー自身が生成AIを使って自動化する」というアプローチで解決へと導きました。
「エンジニアの手を借りず、非エンジニアがAIで業務効率化ツールを自作した」その具体的なプロセスと、現場で起きた“意識のイノベーション”に迫ります。
―― デザイナーの時間を奪う、終わらない「リネーム作業」のリアル
キャラクター、背景、3Dモデル、UI素材……。1つのゲームタイトルを構築するには、膨大な数のアセットが必要です。これらをシステムに正しく認識させるためには、一文字の狂いも許されない「厳密な命名規則(ルール)」が求められます。
しかし、プロジェクトごとにルールが異なるうえ、手動での作業には限界がありました。
・ファイル名の重複や、全角・半角の「表記ゆれ」の発生
・ルールを厳格化するほど増える、人間の目視による確認コスト
実際、KMSの現場でも「うっかり同じ名前を付けてしまったアセット」が月に数十件も発覚し、デザイナーたちが丸一日かけて修正と確認作業に追われるという事態が発生していました。
本来、クリエイティブなデザインに集中すべきメンバーが、毎月繰り返される『リネーム地獄』に時間を奪われる――。この状況は、現場のモチベーションを削る深刻な課題となっていました。
―「手動のほうがマシ」立ちはだかったプログラミングの壁
効率化の第一案として浮上したのは、デザイン現場の必須ツールである「Photoshop」のスクリプト化(自動処理)でした。しかし、これにはJavaScriptの知識が必要不可欠。ここで「コード知識ゼロ」の壁が立ちはだかります。
現場から上がったリアルな悲鳴―
・「そもそも、コードの書き方が1文字もわからない」
・「ネットの記事を真似してエラーが出ても、原因が特定できない」
・「やりたい処理のイメージはあるのに、コードに言語化できない」
「これなら、不正確でも手動で1件ずつポチポチ直したほうがまだ早いかもしれない……」。そんな諦めムードが漂い、自動化への挑戦は一度頓挫しかけました。
―日本語で話しかけるだけ。AIが突破した「言語の壁」
この状況を一変させたのが、生成AIの活用でした。
活用したのは、社内で導入されている「Azure OpenAI Service」などの最新AIモデルを安全に活用できる、対話型の社内生成AIプラットフォームです。セキュリティが担保されたセキュアな環境だからこそ、業務のリアルな課題を安心して相談することができました。
ここでデザイナーに求められたのは、プログラミング言語の習得ではなく、「自分がやりたいルールを、普段使っている日本語でAIに説明すること」だけです。
あるデザイナーは、まるで隣の席のエンジニアに雑談混じりで頼むような感覚で、AIにこう指示を出しました。
「このフォルダにある画像を一括で『item_001〜』の連番にしてほしいな」
「あ、でも拡張子が違うファイルが混ざってたら、それはスキップしてね」
AIは、この人間の意図を汲み取り、そのままPhotoshopで実行可能なスクリプトを出力。エラーが出れば「動かない」「ここを直して」と日本語でフィードバックを繰り返し、修正を重ねていきました。
コードを書いた経験が一度もないデザイナーが、数日間の試行錯誤を経て、「自分たちの業務に最適化された自動化ツール」を形にした瞬間でした。
―【結果】ミスはほぼゼロへ。それ以上に大きかった「当事者意識」の変化
AI駆動型のスクリプト導入により、現場の業務は目に見えて改善しました。
しかし、今回の取り組みで何より価値があったのは、数字上の効率化だけではありません。 「非エンジニアであっても、自分の業務の課題を自分の手で解決できた」 という成功体験です。
―「AI × 非エンジニア」がもたらす、小さな改善の積み重ね
今回の事例が示したのは、単に便利なツールを導入したということではありません。「これまでエンジニアに依存せざるを得なかった領域に、非エンジニアもアクセスできるようになった」 という事実です。
「エンジニアが忙しそうだから頼めない」と諦めていた小さな不便を、現場の人間がAIを使ってその日のうちに解決する。このスピード感と当事者意識こそが、現場主導の業務改善(DX)において本当に必要な姿勢と言えます。
専門知識の有無にかかわらず、現場のメンバー一人ひとりが「目の前の不便」を見逃さず、AIを補助線にしながら工夫を凝らしていく。そんな試行錯誤の継続こそが、結果としてクリエイティブな物作りに集中できる環境を支えています。
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